売上成長に伴う問題点
コロナウィルス拡大の影響で、EC業界では売上が伸びている店舗が増えています。コロナ特需による影響は大きいですが、「今がチャンスと捉えて一気に売上を伸ばすか?」それとも「現状維持を優先して売上の成長を意図的にセーブするか?」は非常に悩ましい問題です。もちろん店舗運営の方向性は人それぞれですが、パワーセラーとして大きな売上を誇る店舗はすべて、今のような状況を分岐点として前向きに捉え、成長路線を目指してきた店舗です。
もちろん、売上が伸びることによって、これまでと同じ運営方針では現場をうまく遣り繰りすことはできません。売上が成長することで、どんな変化があるのでしょうか?その変化を予め理解した上で、「売上拡大路線へ進むか?」それとも「一時的なラッキー・トレンドとして割り切るか?」を考えてみましょう。
出荷人員の問題
売上の成長と比例して増加するのは出荷個数です。コロナ感染拡大の影響で新規顧客流入が増加している店舗も多いと思いますが、概して新規ユーザーが増加するタイミングにおいては客単価が低下する傾向にあります。ネットユーザーはじめて利用する店舗に対して、不安な気持ちを抱きながら買い物をします。「ちゃんと商品は届くだろうか?」「はやく出荷して貰えるだろうか?」「商品の品質は大丈夫か?」「店舗のユーザー対応には問題ないだろうか?」など、一番最初に店舗を利用する際にこれらの不安要素を抱きながら買い物をします。お試し気分で購入する場合は、だいたい低単価の商品から購入するのがユーザー心理です。従いまして、新規ユーザーが増加するタイミングでは客単価が低下するの当然なのです。
客単価が低下しているにも関わらず売上が伸びている場合は、確実に注文件数が増えていることになります。出荷件数が増えると、これまで出荷を担当していたスタッフ数だけでは足りなくなり、他の部署からのヘルプ要員を集ったり、いつもより長い時間業務をしてもらったりということになります。売上が伸びると一番最初にパンクする部門が出荷部門なのです。
そこで経営陣が悩むことは「出荷人員の補強をするか?どうか?」です。一時的に派遣社員を雇って出荷を手伝ってもらったり、出荷業務自体を外部に委託するという選択肢もあるでしょう。もちろん取扱商品によっては、これらの手法を取り入れることが理想とされます。特に季節商材など、一年の間で一定期間に売上が集中する商品を扱っているお店においては、閑散期に人員過剰のリスクを回避できる非常にスマートな手法と言えます。
では、自前で人員を補強した方が良い場合はどんな場合でしょうか?それは、コロナ特需以外に明確な成長の要素がある場合です。例えば、今売っている販売チャネル以外に、新たに販路を拡大する場合(もしくはその新たな販売チャネルで売上増加が見込める場合)は特需以外に売上が伸びる可能性があると言えます。将来的なビジョンが売上拡大路線で、ベースの売上アップが見込める販売戦略を考えているのであれば、できるだけ早いタイミングで人材を補強した方が良いでしょう。ただし、利益率が低く、赤字体質の運営を余儀なくされている状況であれば、安易に人員補強する事はお勧めできません。それは、売上が増加するに連れて在庫や資金繰りなど他の要因が絡み合い、赤字が増える(増収減益)の危険性があるからです。その場合は、赤字を回避できる販売戦略をしっかりと立ててから、改めて人員を補強するタイミングを考えていきましょう。
場所の問題
売上が増加すると、確実に仕入れも増えます。仕入れが増えると商品を置く場所が必要となるため、これまでの倉庫では手狭になってしまいます。商品の大半を受発注で賄っていたとしても、それらの商品を一時的に保管する場所が必要となるため、結果的には場所が足りなくなってしまいます。売上と必要な倉庫スペースは必ず比例するため、売上が成長するに伴い、外部に倉庫を借りるなど別の場所を確保する必要性が出てきます。
倉庫を借りるとなると、その立地は商品を出荷している場所に近い方が便利ですが、そう簡単に都合の良い場所が近所に見つかるとは限りません。売上の成長と共に場所が狭くなることは避けて通れない道ですが、外部に倉庫を借りる前にも「やるべき事」があります。それは、現在庫の見直しです。長期滞留している不良在庫はどこかのタイミングで見切りを付けて在庫処分したり、場所を取ってしまう大型商品の販売があれば取り扱いを縮小したり、もしくは小型で売上アップと利益確保を両立できる商品を開拓したりと、現状でスペースを節約する方法はいくつか存在するかもしれません。そうやって無駄に消費しているスペースを少しずつ減らしていきながら、中長期的に外部倉庫を探していっても遅くはないでしょう。
資金の問題
売上が伸び、仕入れが増えると、今まで以上に運転資金が必要になってきます。銀行からの借り入れも視野に考えると良いですが、まずは、現状でできるだけ回転率とキャッシュフローを改善できる方法がないかを考えてみましょう。在庫が増えると、不良在庫が盲点となる場合もあります。一部の売れ筋商品だけでキャッシュを回していると、万が一これらの商品の回転率が悪くなってしまった時に不良在庫がキャッシュフロー悪化に繋がる危険性があります。
仕入れ価格を大きく下回る金額、すなわち赤字で商品を販売することは決して得策ではありませんので、最低限の利益を確保できるギリギリのラインで常に不良在庫を動かすことに意識を向けましょう。ちなみに、販売チャネルが異なることで、今まで売れなかった商品が売れる場合もあります。「楽天市場で売れなかった商品がYahoo!ショッピングに出品すると売れた!」という事も大いにあり得ます。各販売チャネル毎に競争の基準も異なるため、全ての販売チャネルにおいて同じ値段で販売する必要もなくなるかもしれません。在庫を上手に販売するためには、あらゆる販売チャネルにおいて少しでも多くのユーザーにアプローチする方が賢明と言えるのです。
【参考】
売上成長のビジョンを具体的に考える
売上の成長が一時的な特需によるものだとした場合、その需要はいずれ減少してしまいます。売れている時は「この状態がいつまでも続く」と過信してしまいがちですが、世の中そんなに甘くはありません。「諸行無常」という言葉が最も相応しい業界が、このEC業界なのです。今回のコロナ騒動でECへのニーズが一気に上昇したように、時代の流れの影響を一番最初に、そして確実にに受ける業界だからです。
しかしながら、筆者の予測では、コロナショックが落ち着いたとしても、世の中の小売りの状態が元通りになることはないと思います。取り扱い商材にもよりますが、少なくともコロナの影響でECで買い物する機会が増え、これまでネットで買い物をしたことがない多くの人達もネットショップを利用しています。一度、ネットショップでの購入する初経験を乗り越えたユーザーは、その利便性を痛感している訳で、その人達がコロナショックが落ち着いたとしても、従来通りリアルショップだけで購買行動を完結するようになるとは考え難いからです。
今、この瞬間がこれからのECの分かれ目と言えます。色んな分野にアンテナを高く張り巡らせ、これからの時代に合った販売戦略を考えて行きましょう!
最後に一言。。。
EC業界において「現状維持」という言葉は存在しません。売上は「伸びるか?」それとも「下がるか?」のどちらかです。現状維持を目指していれば、いずれ売上は自然と落ちていきます。その事を肝に銘じた上でじっくりと作戦を練ってください。
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