健康食品マーケティングの全体像〜市場動向からブランド戦略、未来への可能性まで〜

Date:2025.03.31
目次

はじめに

日本では健康志向の高まりや高齢化社会の到来などを背景に、健康食品市場が着実に拡大しています。サプリメントをはじめとする健康食品は、日常的な栄養補給や特定の機能性を期待して摂取されるものから、ダイエットや美容を目的とした商品まで、多種多様なラインナップが展開されています。

その一方で、多数のメーカーやブランドが参入しており、競合が激化しているのも現実です。消費者に選ばれ続けるためには、製品の品質向上はもちろんのこと、企業やブランドの特性を活かしたマーケティング戦略の構築が欠かせません。本コラムでは、健康食品市場の特徴や消費者動向を踏まえつつ、具体的なマーケティング手法や今後の展望について解説します。

1. 健康食品市場の概況

1-1. 市場規模と成長要因

日本国内の健康食品市場は、2000年代以降、継続的に拡大基調にあります。その背景には以下のような要因が挙げられます。

  1. 高齢化の進行
    平均寿命の延びと少子高齢化によって「生活の質(QOL)」に対する意識が高まり、食生活から健康を維持・増進しようという考え方が広く浸透しました。 
  2. 予防医療への関心増
    医療費負担が増加傾向にある中、病気になってから治療するのではなく、日頃から健康管理に取り組むことで予防しようとする志向が強まっています。 
  3. 栄養バランスや機能性への注目
    忙しい現代人の食生活は、外食や中食(惣菜・弁当)などに偏りがちです。手軽に足りない栄養素を補給できる点や、特定の機能をサポートする食品へのニーズが高まっています。 
  4. 情報拡散のスピード化
    インターネットやSNSの普及により、健康やダイエットなどに関する口コミが瞬時に広がるようになりました。これにより、新商品やブランドが認知される速度も上がっています。 

1-2. 主なカテゴリーと消費者ニーズ

健康食品の主なカテゴリーとしては、サプリメント、機能性表示食品、トクホ(特定保健用食品)、栄養調整食品、ダイエット関連商品などが挙げられます。消費者は年齢やライフスタイルによってニーズが異なるため、細分化されたカテゴリーごとに独自の市場が形成されているのが特徴です。

2. 消費者動向と行動心理

2-1. 健康食品購買層の特徴

健康食品を購入する層は、大きく二つのタイプに分けられるケースが多いです。

  • 高齢者層
    生活習慣病や体力維持のために栄養補給を重視する。長く続けやすい商品を求める傾向が強い。 
  • 若年層・中堅層
    美容やダイエット、筋肉増強など目的が明確。短期的な効果やSNS映えを重視する人も少なくない。 

2-2. 情報収集のプロセス

現代の消費者は健康食品を選ぶ際、インターネットを駆使して多面的に情報を収集します。従来はテレビCMや雑誌広告が中心でしたが、現在は公式サイトや口コミサイト、SNS上のレビューなど、多彩な情報源を活用して検討するのが一般的です。特にInstagramやTwitterなどのSNSでは、「この人が使っているなら試してみたい」「みんなが良いと言っているから安心できそう」など、コミュニティやインフルエンサーへの信頼感がそのまま購買行動に直結します。

2-3. 疑似科学や誇大広告への懸念

健康食品は医薬品と異なり「治療」ではなく「予防・補助」を目的としているため、商品によっては過度に効果を強調する表現や、科学的根拠が不十分なままの広告が見受けられるのも事実です。このような背景から、「本当に効果があるのか」「誇大広告ではないか」といった疑問や懸念も根強く存在します。企業側は、適切な情報提供と誠実なマーケティング活動を行うことで、長期的な信頼を構築していく必要があります。

3. ブランド戦略の重要性

3-1. 差別化の要としてのブランド

健康食品市場では、多数の企業が商品を投入し、多様な顧客ニーズが存在します。そこで重要になるのが「自社の商品を際立たせる方法」です。価格や成分、ターゲット層などの差別化ポイントは複数ありますが、特にブランドイメージの確立は大きな効果を生み出します。「信頼感」「安全性」「実績」などを訴求することで、競合他社と差別化できるだけでなく、価格競争に巻き込まれにくくなるというメリットもあります。

3-2. パーソナルブランディングと「推し」の活用

近年は、SNSやYouTubeなどを通じて“人”を介して訴求する手法が拡大しています。専門家や医師、芸能人、スポーツ選手などを起用し、「〇〇先生のお墨付き」「□□選手が愛用」などとアピールすることで、より具体的なイメージを持たせやすくなります。また、こうした“人”自身がブランドアンバサダーとしての役割を果たし、ファンやフォロワーにリーチすることができる点も大きな魅力です。

3-3. ストーリーテリングで共感を生む

自社商品の原材料へのこだわりや、創業者の想い、地域との結びつきなどを物語として打ち出すことで、消費者に共感を与えやすくなります。特に健康食品は口に入れるものだからこそ、“生産者の顔が見える”といった安心感が購買意欲を大きく後押しします。動画やビジュアルを活用し、生産過程を可視化するなどの工夫を行えば、商品への“信頼”と“愛着”をいっそう深めることができます。

4. 製品開発と差別化

4-1. 機能性表示食品・トクホへの対応

健康食品をマーケティングする際に注目すべき制度として、機能性表示食品や**特定保健用食品(トクホ)**があります。これらは科学的根拠に基づいて身体の機能性に関する効果を表示できるため、消費者にとってわかりやすく信頼感が得られやすい点がメリットです。一方で、許認可や届け出にかかる時間・費用、書類作成や研究データの蓄積といった負担も大きいため、自社の規模や商品コンセプトと照らし合わせて検討することが重要です。

4-2. 独自成分・素材の訴求

原材料の差別化は健康食品における重要なポイントです。たとえば「特定地域でしか採れない稀少な果物エキス」「独自の製法で抽出した高濃度成分」などを前面に出すことで、他社にはない独自性を強調できます。ただし、その素材や成分の機能性を裏づけるエビデンス(研究データや学会発表など)を示すことで、消費者の納得感をさらに高めることができます。

4-3. 飲みやすさ・続けやすさ

健康食品は継続的な摂取によって効果を実感できるケースが多いため、味や飲みやすさ、携帯性、価格といった長く続けるうえでのハードルを下げる工夫が欠かせません。最近では定期購入システムやサブスクリプションモデルの導入も注目されており、リピート率向上に寄与する施策として多くの企業が採用し始めています。

5. 販売チャネル戦略

5-1. 実店舗 vs. EC

健康食品の販売チャネルには、ドラッグストアやコンビニ、スーパーなどの実店舗と、公式通販サイトや大手ECモール(Amazon、楽天など)があります。実店舗の強みは、店舗スタッフによる対面接客が可能な点や、シニア層などネットに馴染みが薄い層にもアプローチしやすい点です。一方、ECでは全国区へのリーチや定期購入を促しやすいメリットがある一方、在庫管理や物流コスト、オンライン広告運用のノウハウが求められます。

5-2. オムニチャネル化の動き

近年は、実店舗とECを組み合わせたオムニチャネル戦略が注目を集めています。店舗で商品を試してからECで購入する、逆にECで情報を得てから店舗で相談するなど、消費者の多様な行動を捉え、シームレスな購買体験を提供することが狙いです。健康食品では、試供品やサンプルを配布して体験させたり、定期購入者限定の特典をオンラインで提供したりするなど、リアルとオンラインをうまく連携させる施策が効果的です。

5-3. 海外展開の可能性

日本国内で実績を積んだ健康食品ブランドが、アジアを中心とした海外展開を目指すケースも増えています。特に中国や東南アジアの富裕層・中間層では、日本製の高品質な健康食品へのニーズが高いとされており、大きな可能性を秘めています。ただし、各国固有の規制・関税、物流コスト、現地マーケティング手法の違いなど、国内とは異なるリスクや課題が存在するため、十分な市場調査と慎重な計画立案が欠かせません。

6. プロモーションと広告手法

6-1. デジタルマーケティングの活用

スマートフォンの普及に伴い、デジタルマーケティングの重要性は健康食品業界でも一層高まっています。SNS広告や検索連動型広告(リスティング広告)は、ターゲット層にピンポイントでアプローチできるため、費用対効果の高い集客が可能です。さらに、LINE公式アカウントやメールマガジンなどを組み合わせることで、購入後のフォローやリピート率向上の施策にもつなげやすくなります。

6-2. インフルエンサーや専門家の活用

口コミの影響が大きい健康食品では、SNSで影響力を持つインフルエンサーや専門家の起用が効果的です。ただし、単純に広告を依頼するだけではなく、インフルエンサー自身のキャラクターやライフスタイルと商品コンセプトの整合性をしっかりと確認する必要があります。過度な宣伝感が出てしまわないよう、インフルエンサー本人の実体験やリアルな感想を尊重した情報発信を行うことが信頼獲得のカギとなります。

6-3. 体験型プロモーション・イベント

健康食品では、試供品や実際に体験してもらうことが重要な購買動機に直結しやすいと言われています。たとえば、スポーツジムやヨガスタジオとのコラボイベントでサンプルを配布するなど、運動との組み合わせで健康効果をアピールする手法は定番です。また、百貨店やショッピングモールでのポップアップストア、試飲・試食会を通じて、製品に対する理解と興味を深めてもらう施策も効果的です。

7. 法規制と倫理面

7-1. 薬機法・景品表示法への対応

健康食品の広告においては、薬機法(旧薬事法)や景品表示法などの法規制を守らなければなりません。医薬品のような効能・効果をうたうことや、科学的根拠が不十分なまま「絶対にやせる」「血圧が劇的に下がる」など断定する表現は違法となる可能性があります。また、競合他社との比較広告で他社を誹謗中傷する表現も規制対象となり得ます。広告制作の段階で法務チェックを徹底し、適切な表現を選ぶことが欠かせません。

7-2. 機能性表示食品の適正表示

機能性表示食品は、科学的根拠に基づくデータや届け出書類の作成・提出が必要です。消費者庁への届け出が受理されるまでには一定の時間がかかり、表示方法にも厳格なルールがあります。表示内容に不備や誤りがあれば、行政処分を受けたり、ブランドイメージを損なうリスクが高まるため、十分な準備と専門知識が求められます。

7-3. 消費者への誠実なアプローチ

消費者の健康に関わる商品である以上、高い倫理観をもったマーケティング活動が求められます。誇大広告による一時的な売上拡大ではなく、正確で誠実な情報提供を通じて長期的な信頼を積み上げる姿勢が、健全なブランド価値の確立につながります。開発段階や広告制作段階で専門家や第三者機関の意見を取り入れ、消費者が安心して購入できる環境を整えることが必要不可欠です。

8. 今後の展望とトレンド

8-1. パーソナライズド栄養の普及

遺伝子検査や血液検査などの技術進歩に伴い、個々の体質や健康状態に合わせたカスタマイズ型の健康食品やサプリメントが注目されています。個人単位で栄養管理を行い、最適な成分を配合するサービスは今後需要がさらに高まると予想され、企業にとっては新たな差別化ポイントともなり得ます。

8-2. SDGsやサステナビリティへの対応

持続可能な社会を目指すSDGs(持続可能な開発目標)の普及に伴い、健康食品メーカーにもサステナブルな素材調達やエシカル消費への取り組みが強く求められています。環境に配慮したパッケージの採用や、公正な取引を行うサプライチェーンの構築などは、企業イメージの向上だけでなく、社会的責任を果たす上で欠かせない要素です。

8-3. オンラインコミュニティの活用

健康や美容に関連したオンラインコミュニティが増え、ユーザー同士が情報交換を行う場として機能しています。メーカーやブランドが公式コミュニティを運営し、管理栄養士や専門家が定期的にアドバイスを提供する取り組みは、ユーザーとのエンゲージメントを高める効果があります。さらに、ユーザー自身の体験談や成果報告が蓄積されることで、新規顧客にとっても信頼度の高い情報源となり、ブランドロイヤルティを向上させる好循環を生む可能性があります。

9. まとめ

健康食品市場は、多様化・成熟化が進む一方で、高齢化や健康志向の高まりなどから、今後も安定した成長が見込まれています。しかし、競合が多い中で消費者に選ばれるためには、しっかりとしたブランド戦略マーケティング戦略が不可欠です。

  • ブランド戦略
    ブランドイメージやストーリーテリング、専門家やインフルエンサーとの連携を通じて独自の価値を打ち出し、長期的な信頼を獲得する。 
  • 製品開発と差別化
    機能性表示食品の活用や独自成分のアピール、飲みやすさなど、消費者が継続しやすい魅力を徹底的に追求する。 
  • 販売チャネル戦略
    実店舗とECを組み合わせたオムニチャネル戦略や海外展開を見据え、最適なチャネルで消費者との接点を増やす。 
  • プロモーション
    デジタルマーケティングやインフルエンサー施策、体験型イベントなど、多角的なアプローチで情報発信と口コミを促進する。 
  • 法規制と倫理
    薬機法や景品表示法を遵守し、誠実な情報提供や広告表現を行うことで、企業の信用力を守り、高めていく。 

これに加えて、個別化された栄養管理サステナビリティのトレンドに対応し、オンラインコミュニティをはじめとする新たなコミュニケーション手段を巧みに活用することが、今後の市場で生き残る鍵となるでしょう。

健康食品は、人々の生活習慣や人生観にも大きく関わるデリケートな製品です。そのため、“信頼と実績、誠実さ”こそが、企業やブランドにとって最大の強みとなります。一時的なブームや派手な広告だけに頼らず、商品開発と情報発信の両面で誠実な姿勢を貫くことで、消費者が「この商品を選んでよかった」「これからも続けたい」と思える価値を提供すること。それこそが、健全な健康食品市場の発展に貢献する道ではないでしょうか。